第1編 物質の状態

第1章 粒子の結合と結晶構造

1原子とイオン 2イオン結合とイオン結晶

3分子と共有結合 4共有結合の結晶

5金属結合と金属

 原子とイオン

原子の構造】

 
 

原子は原子核を中心として,その周りに電子が存在する。さらに,原子核は陽子と中性子からなる。陽子の数は元素によって決まっていて,その数を元素の〔 原子番号 〕という。また,陽子の数と中性子の数を合わせて〔 質量数 〕という。陽子の数と電子の数は等しいので,原子全体では電気的に中性(±0)になっている。上のモデル図の原子は陽子が2個だから〔 He 〕である 

 

原子の電子配置

 電子は原子核の周りにいくつかの層に分かれて存在する。この層を〔 電子殻 〕という。電子殻は内側からK殻,L殻,M殻・・・とよんでいる。各電子殻に入る電子の最大数は,KLM,・・・をn123・・・とすると,〔 2n2 〕個となる。

 電子は最内のK殻から配置されていき,最大数になったら1つ外側の殻へ配置される。【発展】電子軌道(原子軌道)参照)      
 

例)8O11Naの電子配置 

 

19K20Caなどの電子配置は基本的には,1H18Arと同じだが,最も外側の電子殻の配置が異なるので注意する。

 
 
 

価電子

 原子の最外殻の電子を〔 価電子 〕という。最外殻の電子は,原子が反応したり,結合したりするときに使われる。そのため,価電子の数が同じ原子は化学的性質が似る(左下))。

貴ガス(2He10Ne18Ar36Kr,…)の原子は他の原子と反応したり,結合したりしない。化学的に安定な性質である。希ガスの電子配置を考えてみると,なぜ安定なのかがわかる(右下)。そのため,貴ガスの価電子数は〔 0 〕と示す。最外殻の電子数といった場合は,28と示すので注意。他の原子では「価電子数=最外殻の電子数」となる

   


例題
 次の原子の最外殻電子の数,価電子の数はそれぞれいくらか。

 (19F (213Al (316S (418Ar (512Mg

 

(1) 最外殻電子7,価電子7  (2) 最外殻電子3,価電子3  (3) 最外殻電子6,価電子6 

(4) 最外殻電子8, 価電子0 (5) 最外殻電子2,価電子2

 

周期表と電子配置

 

【イオンの生成】

多くの原子は,不安定で単独では存在できない。安定な原子は,最外殻の電子数が8個(価電子0)の貴ガス元素だけである。そこで不安定な原子は安定化するため,最外殻の電子(−の粒子)を放出したり,受け取ったりして最外殻の電子数が8個(価電子0)の状態になる。この状態がイオンである。最外殻電子が13個の原子は,最外殻電子13個を放出して,陽イオンになる。最外殻電子が67個の原子は,最外殻に電子21個を取り込んで,陰イオンになる。また,最外殻電子が45個の原子は,イオンにはならず他の方法で安定化する。

 
 
 

例題 次のa,bにあてはまるものを,それぞれの解答群@〜Dのうちから1つずつ選べ。

a 最外殻電子が最も多い原子

@ 炭素   A 窒素  B ヘリウム  C ナトリウム  D 酸素


     b 最外殻電子の数が他の4つと異なるイオン

@ Al3  A F B Li  C Mg2  D O2

 

a @ C 電子配置K2L4より最外殻電子4  A 7N 電子配置K2L5より最外殻電子5 

  B 2He 電子配置K2より最外殻電子2
    C 11Na 電子配置K2L8M1より最外殻電子1  

  D 8O 電子配置K2L6より最外殻電子6 よって,D


b イオンの電子配置は,貴ガスと同じ電子配置(最外殻がK殻のときは2,その他のときは8)になる。@〜Dのイオンで最外 殻がK殻になるのはBLi。よって,他の4つと異なるのはB。

 

例題 右の表は周期表の一部である。この中の原子が安定なイオンになったときに,イオン半径が最も大きい元素はどれか。

 



  イオン半径は,イオンの原子核から最外殻までの長さである。周期表では,周期が増すごとに最外殻がより外側になる。そのため,この周期表の中で最もイオン半径が大きいのは,第3周期のNaArのイオンのどれかとなる。NaMgAlは金属元素で最外殻の電子を放出して陽イオンになるので,イオンになると最外殻が1つ内側になる(小さくなる)。SiPは最外殻電子がそれぞれ45なのでイオンにならない。またArは安定な電子配置なのでイオンならない。SClは非金属元素なので,電子をそれぞれ21個受け取って陰イオンになり,最外殻はM殻のままなので,この2つのどちらかのイオン半径が最大となる。SClはそれぞれS2Clのイオンになる。S2Clは原子核に陽子がそれぞれ16(+16),17(+17)あり,ともに電子を18(−18)もっている。電子18個をより多くの陽子で原子核に引き付けているS2は最外殻がより内側に強く引き付けられているので,Clよりもイオン半径が小さくなる。よってイオン半径が最大なのはClである。

 

例題 次の物質の組み合わせで,融点の高いものをそれぞれ答えよ。

   @ NaBrNaCl  A Li2ONa2O

 

 固体は粒子が互いに引き合って集まった状態である。固体に熱を加えていくと,粒子は熱運動によって動くようなる。粒子間の結合力が強い物質を液体にするにはより多くの熱を必要とする。つまり,融点が高い物質は粒子間の結合力が強いということになる。この場合の粒子間の結合はイオン結合である。イオン結合の強さは,イオンの価数の積に比例し,イオンの中心間距離の2剰に反比例する(クーロン力Fk(qq)/r2に相当する)。


@ NaBrNaBrNaClNaBrなので,価数の積は同じ。NaBrの中心間の距離はNaの半径とBrの半径の和
 となる。同様にNaClの中心間距離はNaの半径とClの半径の和となる。Naが共通なので,BrClでイオン半径が大
 きいほうが中心間距離も大きくなる。よって,結合力はBrClでイオン半径が小さいほうが強くなる。イオン半径は,Br
 −
Clなので,結合力はNaClの方が強く,融点が高い。

A @と同様,LiNaのイオン半径の違いで判断できる。イオン半径はLiNaなので,結合力はLi2Oの方が強く融点
 が高い。